黒子のバスケ

『洗濯物』×笠松幸男



 ふと目をやった窓の向こうの光景に、あっと声を出して立ち止まった。
 どうして外に、と疑問が浮かびかけて、そう言えば室内干しをする旨を伝え忘れていたことに気づく。
 うっかりしていたと苦笑い。ベランダへ出て、風に舞うシーツに手を伸ばした。

「おい、、なにしてるんだ」

 すぐ後ろ、いくらか高いところから声が降ってきて、届かなかったわたしの代わりに一回り大きな手がシーツをつかむ。
 首を後ろに反らせて振り仰げば、そこには渋面を作った幸男くんの顔があった。

「取り込めばいいんだな。中入ってろ、俺がやる」
「わかった、お願いします。ありがとね、幸男くん」

 言われたとおり部屋に入り、彼の作業を眺める。程なく、白い布の固まりを抱えた幸男くんがベランダ用のサンダルを脱いで戻ってきた。

「……これ、まだ濡れてねぇか」
「うん、だから部屋の中に干すの」
「何でまた?」
「この時期は埃と花粉がひどいから。ほら、あれ、使おう」

 隣の窓の際に広げた折り畳み式の物干し台を指さすと、幸男くんは半眼でこちらを見やった。先ほどまでそれがしまわれていたことに早くも気づいたようだ。

「じっとしてろっていつも言ってるだろ」
「……はは、ばれちゃった」
「やっぱりそうか、」

 はあ、とため息をついた幸男くんの隣に並んで、しっとりと水分を含んだシーツを物干し台にかけていく。ごめんね、と一言謝ると、ごく軽く額をこづかれた。

「あんまりひとりで動こうとするな、危ないだろ」
「はぁい、次から気をつけます」
「本当に頼むぞ、どっちにとっても大事な時期なんだからな」

 幸男くんの手のひらが、ようやく膨らみが目立ってきたわたしのおなかをさする。ここにいるもうひとりにも、彼の優しい体温が伝わっているといい。


Update 2014.03.10
笠松さんと奥さんのお洗濯事情。
彼はいいお父さんになってくれそうだなと思います。