落第忍者乱太郎

『花咲くを待つ』×不破雷蔵



 見上げた空は青く高い。
 パステルブルーのインクをぶちまけたカンバスに、ところどころ白い綿飴が散らされている。いい天気だ、自然と背筋が伸びる。

「絶好のお散歩日和だね」

 雷蔵の呟きに、「同じこと考えてた」と返すと、彼は照れたように頭をかいた。
 なんだか急に恥ずかしくなって、顔を前に戻し、つないでいた手をわざと大きく前後に振る。ひそやかな笑い声はきっとわたしの頬が熱を持っていると知っていた。

「あ、ねえ見て、ちゃん」

 声をかけられて立ち止まる。雷蔵の指が示す先にあった街路樹は、裸のままの木々の中で唯一、ちいさな花を付けていた。

「……さくら? 早いわね、今年はまだ梅の花も満開になってないのに」
「早咲きの種類かな。ここの桜並木に混ざってるとは知らなかった」

 並んで見上げた枝の先で、白い花弁が3月の風に揺れている。ひとつひとつは頼りなげに見えるのに、枝から離れることなく空を向くさまはたくましい。
 なんだか、雷蔵に似ている。そんなことを考えていたら、ふと白い花を髪に挿した彼の絵が浮かんだ。これが不思議と似合っていて笑ってしまう。本人は渋い顔をしそうだけれど、鉢屋や竹谷に訊いたら同意をもらえる気がした。

ちゃん、どうかした?」
「ふふ、なんでもないよ。このさくらが満開になるのが楽しみだなあと思っただけ。ねえ雷蔵、また一緒に、花が咲くのを見に来ようね」

 雷蔵が目を細めて頷く。それだけでわたしも嬉しくなって、再びの散歩の予定を勝手に立てながらつないだ手を揺らした。
 左手の薬指に最近おさまったばかりの、真新しい銀輪が午後の日差しを反射する。不破の苗字をもらって初めての春は、どこまでも穏やかに深まっていく。


Update 2014.03.10
雷蔵と奥さんの新婚お散歩デート。
彼のいつもの迷い癖が奥さんのことになると鳴りを顰める、とかだと素敵ですね。